ALP(アルカリホスファターゼ)とは
ALP(アルカリホスファターゼ:以下ALP)はリン酸化合物を分解する酵素で、肝臓や腎臓、腸粘膜、骨などで作られ、肝臓で処理されて胆汁中に流れ出ます。胆石や胆道炎、胆汁うっ滞、肝臓の機能が低下すると、胆汁中のALPは逆流して血液中に流れ込みます
ALP値は、胆汁うっ滞では大きく上昇しますが、急性肝炎や慢性肝炎、肝硬変などではあまり大きな上昇はみられないため、
黄疸が現れた場合、その原因が肝臓にあるのか、胆道にあるのかを特定するのに有効です。
一方AST(GOT)やALT(GPT)は、逆に肝炎などで大きく上昇し、胆汁うっ滞ではさほど上昇しないため両者の検査値を比較することが重要です
またALPは骨の成長とも関連し、成長期にある小児や思春期には、ALP値は成人よりも高い値を示すことが知られています
ALP基準値
低値:遺伝性低ALP血症高値:肉芽腫性疾患、原発性胆汁性肝硬変、転移性肝癌、ウイルス性肝炎、胆管癌、胆管癌、乳頭部癌、アミロイドーシス、甲状腺機能亢進症、 胆道結石、 乳癌、 肺癌、 膵癌、 悪性腫瘍、 悪性腫瘍肝転移、 悪性腫瘍骨転移、 悪性腫瘍骨転移、 骨肉腫、 白血病の肝浸潤、 副甲状腺機能亢進症
胆道系疾患:胆管癌,乳頭部癌,胆道結石、胆汁うっ滞:ウイルス性肝炎,薬剤性肝障害,原発性胆汁性肝硬変
限局性肝疾患:転移性肝癌,肉芽腫性疾患,白血病の肝浸潤,アミロイドーシス,肝硬変、
形成疾患:悪性腫瘍骨転移,骨肉腫,骨折後,甲状腺機能亢進症,副甲状腺機能亢進症
悪性腫瘍(肺癌,卵巣癌)
ALP高値時が認められ際に必要な検査
・AST,ALTなどの肝逸脱酵素,Bilとγ-GTなどの胆道系酵素の測定・ALPアイソザイム
・薬剤服用歴の確認
・腫瘍マーカーの検索,ⅠCTP,Ca,PTHrP,intact PTH,ALPアイソザイム
・画像診断:腹部CT検査,腹部超音波検査,骨シンチグラフィ,骨MRI
ALPアイソザイム(ALPアイソザイム及び骨型アルカリホスファターゼ(BAP))
アルカリホスファターゼ(ALP)アイソザイムは,電気泳動法で6種類(ALP1~6)存在する
正常血清ではALP2型とALP3型の2種類のみ存在します
ALPアイソザイム基準値
・ALP1:0~2%
・ALP2:22~63%・ALP3:31~71%
・ALP5:0~20%
血液型がO型ならびにB型の正常人では、食後血清で分析するとALP5型を認めることがある
・ALP1:閉塞性黄疸、限局性肝障害
・ALP2:各種肝疾患、胆道系疾患
・ALP3:骨疾患(成長期の小児)、副甲状腺機能亢進症
・ALP4:悪性腫瘍の一部、妊娠後期
・ALP5:肝硬変、慢性肝炎、慢性腎不全
・ALP6:潰瘍性大腸炎などで出現する免疫グロブリンと結合したマクロALP。
骨型ALP(BAP)は,特異的なモノクローナル抗体による免疫学的方法で測定される骨形成マーカーです
血液型BまたはO型で分泌型患者,Lewis陽性者における変動
BまたはO型で分泌型グループ、Lewis陽性はそれ以外の血液型グループに比べ,約20%高値となることが知られている.これは,ALPアイソザイムの一つである小腸型ALP(電気泳動法ではALP5)が,
血液型に依存して出現することに起因しています.
この小腸型ALPには,脂肪食後急激に上昇するノーマル分子サイズ小腸型ALと,
脂肪食前後でその量がほとんど変動しない高分子小腸型ALPのアイソフォームが存在し,
これら2種のアイソフォームがともにBまたはO型で分泌型の血液型に依存して出現する
ALP測定法
ALP の測定は次の反応系によって行なわれている。(i) 4-ニトロフェニルリン酸+H2O → ALP→ 4-ニトロフェノール*+リン酸
(ii) 4-ニトロフェニルリン酸+R → ALP→ 4-ニトロフェノール*+R-リン酸
JSCC 法と IFCC 法の相違点について
IFCC法 | JSCC法 | ||
緩衝液 | 緩衝液 | AMP | EAE |
濃度(mol) | 0.35 | 1 | |
調整ph | 10.4 | 9.9 | |
測定ph | 10.4 | ||
測定温度 | 30 | 37 | |
4-NPP(mmol/l) | 16 | 15 | |
Mg2+(mmol/l) | 2 | 0.5 |
(ii)の反応では緩衝液でもある受容体基質が関わっており、表1に示すように
JSCC 法では 2-エチルアミノエタノール(EAE)が 2)、IFCC 法では 2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)が使われている
ALP(JSCC)の問題点とIFFCCへの推移
JSCC 勧告法の作成当時は Kind-King 法と同様な反応性を望む意見が臨床系の学会から寄せられ、
それに配慮して最終的にEAEを使用することとなった
アイソザイムの反応性が異なり、EAE で最も反応性の高い小腸型が AMP では最も低い反応性を示します
IFCC 法では亜鉛を含む試薬処方になっているのに対して JSCC 法では含みませんが、高純度化された EAE を用いて調製した JSCC 法試薬では測定値が低下することも明らかになっています
また日本のの ALP 測定法(JSCC 法)は小腸型 ALP の反応性が高い試薬処方が採用されており、血液型が B,O 型でSe(Fut2)が分泌型の人(B,O 型の約 8割)では病気と無関係に血中に小腸型 ALP が出現し、
国際的な治験では ALP 同様、国内の測定値が受け入れられないため海外へ検体を送って測定している状況もあります。
ALPのJSCCからIFCCへの移行に際して注意すべき点として
・測定値が現行の 1/3 程度の数値になります。・変更前後の値の換算には限界があります。
IFCC 法に変更することで血液型B,O 型では小腸型 ALP を含む検体で低めになり、逆に妊婦では胎盤型 ALPが増加することにより高めに測定されます。
・ALP アイソザイム試薬についても IFCC 法に対応した新しい処方のものが発売されますので、その IFCC 法に対応した試薬での測定が必要です。
このため基準値も変更となり変更後の基準範囲については
成人男女:38〜113 U/L が推奨されております
変更による利点
測定法の変更におり下記の利点が生じます1 )疾患と無関係な上昇が軽減し、肝・骨疾患の臨床的意義が向上します。
2 )測定値を海外と共有化でき、国際的な治験や治療への参画時に利便性が向上します。
また変更によって主な領域および疾患での変更後の値について下記診療領域に出る影響もある程度は予測されております
また健康診断にも利点があります
血液型:B,O 型の一部で頻発する傾向にあった疾患と関連しない上昇の多くが解消され、
肝および骨疾患の臨床的意義が向上する
肝疾患: JSCC 法ではノイズ的要素が高かった B,O 型の一部に出現する小腸型 ALPを低く抑えることから、
肝疾患への特性が増し、生理的変動も縮小する
骨疾患:海外と同一の測定法となることから、世界的に情報共有が可能となり、治療ガイドラインの有用性が向上する
癌の骨転移や慢性腎疾患などの骨代謝異常の指標の一つとして海外も含めた利用価値が向上する
ALP JSCC とIFCC 補正式
日本臨床化学会は2020年4月より1年の移行期間を設けて、IFCC測定法への変更を決定しました実際に自分が勤務する施設では試薬の検討は終了しましたが、まだ臨床への説明会を終えておりません。
おそらくは日本医師会精度管理を終えてから、年度末あたりに移行すると思います
すぐにとは言えませんが暫くはISCCとIFCCの併記となりそうです換算式も公開されていて
B,O 型の検体の比率によって回帰式の傾きと乖離の程度が異なるため、実測値に合致する換算係数を得ることは困難ですが、
ほぼ肝型と骨型の検体と仮定した場合の換算係数は以下となっております。
・JSCC 法測定値から IFCC 法測定値に換算: 0.35 倍
・IFCC 法測定値から JSCC 法測定値に換算: 2.84 倍
が推奨されております
IFCCで測定して、JSCCをカルテ上併記しますが、計算式での報告となりそうです
さいごに
ALPのJSCCとIFCCへの移行が検査業界ではちょっとした話題となっております汎用分析器用APL(IFCC)の試薬があるのは富士フィルム和光、シノテスト、関東化学から販売されております
試薬メーカーの営業担当の方から聞いた話ですが、試薬ランニングの依頼が多く、
コロナウィルスの件もありまして、なかなか予約ができにくい状況だそうです
先日自施設では試薬のランニングが終了しましたが、臨床化学会の通達どおりの仕事検討結果でした
長年データを取り続けている臨床の先生への説明とシステムのマスタ設定とタイミングが一番悩ましいと思います
また厚生労働省から2020年度内に変更しろという通達もあります
厚労省の文章、臨床化学会の文書、現行法との相関性試験結果の準備が必要となります
たの施設の状況などを踏まえながら遅れをとらないようにしていく必要があります
※引用先:シスメックスプライマリケア 、日本臨床化学
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