TSHの標準化(ハーモナイゼーション)と検査室の対応

2020年10月12日月曜日

情報 生化・免疫学検査

t f B! P L

甲状腺刺激ホルモン(TSH)を測定する意義 


甲状腺刺激ホルモン(TSH)は甲状腺機能の異常が疑われる場合に甲状腺ホルモン検査(FT4,FT3)と組み合わせて測定します.検査の進め方として,FT4,FT3値との組み合わせ甲状腺機能異常を診断し,病歴,臨床症状,甲状腺自己抗体検査,画像検査などによって病因の診断を進めます.臨床上,対象疾患の大部分を占める原発性甲状腺機能異常において,TSHはFT4,FT3が基準値内に留まるような甲状腺機能のわずかな亢進/低下にも鋭敏に反応して減少/増加するため,その測定は甲状腺機能を正確に評価する上で重要で不可欠です. ※シスメックスプライマリケアより引用 

TSHの標準化(ハーモナイゼーション)の必要性 

主要な検査項目であるにもかかわらず、測定値の方法間差が大きく、そのため正常/異常の区別が不明確で、適切な診断・治療につながらない可能性や医療機関を変えることにより違う値が出るという課題がありました。TSH、FT4とも方法内変動は良好ですが、方法間変動が大きく、キットによって測定値が異なってしまうというのが現状です。 

日本医師会が主催の臨床検査精度管理調査結果報告書によれば、TSH値は測定キット間の変動が大きく、最大を与えるキット値と最小を与えるキット値は最大で約1.6倍の差があります。このため医療機関により値が異なったり、また研究成果を比較できない等が発生し、ガイドライン作成も不正確になりかねません。 

IFCC C-STFTでは全世界13社の試薬メーカーのキット間差を解消する取り組み(Phase IV)を始め、その成果を国際学術誌(Clin Chem 2017; 63:
1248-60)に発表しております 

方法間差を抑えるためにIFCC(国際臨床化学連合International Federation of Clinical Chemistry and Laboratory
Medicine)は、C-STFT(甲状腺機能検査標準化委員会
Committee for Standardization of Thyroid Function Tests)を組織し、国際的標準化を推し進めています。日本国内においてはIFCCのC-STFT委員を中心に標準化委員会が立ち上がり、IFCCでの検討結果を元に世界に先駆けてTSH値のハーモナイゼーションが計画され、日本臨床検査医学会標準化委員会において議論され方針が決定されました。  

TSHの標準化(ハーモナイゼーション)の方向性 

2021年3月末日までに各キットがIFCC基準適合検査値(PhaseⅣ)補正方法を適用するという方向性でのハーモナイゼーションが進行中であり、各キットの補正係数や、新たに設定されました 

IFCC 標準化検討に用いた試薬/装置
製造販売会社名試薬キット名装置名補正係数
アボット ジャパン株式会社アーキテクト・TSHARCHITECT アナライザー i 2000SR公開準備中
株式会社LSIメディエンスステイシアCLEIA TSHSTACIA®1.3
オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社ビトロス® TSH新試薬ビトロス® 5600新キットにて対応
富士フイルム和光純薬株式会社アキュラシード TSH自動化学発光酵素免疫分析装置 AccuraseedⓇ1.09
シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス株式会社ケミルミTSHⅢウルトラケミルミADVIA Centaur XP1
シスメックス株式会社HISCL TSH 試薬全自動免疫測定装置HISCL®-50001.07
東ソー株式会社Eテスト「TOSOH」Ⅱ(TSH)全自動エンザイムイムノアッセイ装置 AIA-20000.92
富士レビオ株式会社ルミパルス® TSH-Ⅲルミパルス® G1200公開準備中
ベックマン・コールター株式会社アクセス TSH 試薬パックAccess2イムノアッセイシステム公開準備中
ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社エクルーシス試薬 TSH v2コバス 6000 <601>0.98

TSHの標準化(ハーモナイゼーション)の基準値 

 日本臨床検査医学会標準化委員会が定めたTSHの標準化(ハーモナイゼーション)の基準値は下記のようになります。 

・ 0.61~4.23 mIU/L ※mIU/L=μIU/L  

統計学的データに基づいており日本人の基準範と施設で使用する基準値を検討する必要があります。自身が務める施設とは基準値が異なっておりました。関係診療科への相談が必要そうです。   

さいごに 


甲状腺疾患の診断、治療の上で根幹をなすTSH値のハーモナイゼーションに対する国内の対応が決定しております 
検査医学会や甲状腺学会など関連学会のホームページに掲載されております。勤務先で採用されている検査試薬が何でハーモナイゼーション試薬があるのか?係数補正でよいのか?切り替える必要があるのか?確認しておく必要があります

このブログを検索

QooQ