細胞診標本のスクリーニングと見方と考え方

2021年2月28日日曜日

細胞検査士試験情報 病理・細胞診

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細胞診検査は、臨床で患者さんより採取された検体を病理検査士室で細胞診標本を塗抹・染色・作製等言う工程を経て、細胞検査士が顕微鏡でみてスクリーニングを行います。標本中に悪性を疑わせるような異常細胞がないか?病原体がいないか?を確認します。仮に悪性を疑わせる様な異常細胞を認めたら細胞診専門医の診断を受けて臨床医や患者さんに報告します。

細胞診の意義(目的)

そもそも細胞診の意義として
診断
 1)悪性腫瘍細胞の有無
 2)治療効果の判定
 3)感染症及びその程度の類推
 予防医学
 1)個人検診
 2)集団検診
 3)老人健診
といった目的のために活用されております

細胞診断の長所と短所

【長所】
1 検体採取が比較的容易で、患者に対する侵襲が少なく、
繰り返し検査が出来る。
2 生検を行うことが不可能な検体(胸・腹水、尿、髄液等の液状 検体)で細胞診以外に診断方法が無い場合に有力である。
3 標本作製が容易で、比較的安価→集団検診に適する。
 
【短所】
1 喀痰、胸・腹水、尿などは剥離した細胞に変性が加わっているので判定しにくい、また剥離した細胞の起源が判りにくい。
2 悪性細胞が見つかっても、広がり、進行度(進達度)の判定が 困難である。
3 組織診に比べ情報が少なく、その判定にかなりの熟練を要する。

検体採取からの一連の流れ

細胞診の標本は
外来・病棟
・検体採取(臨床医・患者)

病理検査室
・標本作製
・スクリーニング(細胞検査士)
・スクリーニング(細胞検査士)
・最終判定(細胞診専門医)

外来・病棟(臨床医・患者)
・結果報告
 
スクリーニングをする際は対物10倍のレンズで鏡検し流していき、怪しい細胞や病原体を見つけた場合に対物レンズを切り替え拡大し判断します

標本をみる場合に気を付けていく点を述べていこうと思います

検体の種別

検体の種別も診療科によって採取されてくる検体が異なります。また採取方法によって細胞像の見え方が変化してきます・
・婦人科:  外陰擦過スメア、膣プールスメア、頚部擦過スメア、頚管内膜スメア、子宮内膜スメアetc
・呼吸器:喀痰、肺胞洗浄液、気管支擦過、気管支洗浄法 経気管支穿刺吸引法、経皮的穿刺細胞診等
・消化器:  膵液、胆汁等
・乳腺:     乳頭分泌物、FNAB
・甲状腺:  FNAB
・体腔液:(洗浄)胸水、(洗浄)腹水、心嚢液、陰嚢水
・頭頚部:  耳下腺・唾液腺・舌下腺(FNAB
・リンパ節:FNAB・捺印法
・髄液:     オートスメア法・
・泌尿器:自然尿、カテーテル尿、分腎尿、膀胱洗浄液等
・その他:FNAB・捺印法等

固定方法の種類

95%アルコール固定: 婦人科スメア、喀痰、気管支擦過、乳腺、甲状腺、 耳下腺、唾液腺、舌下腺(FNAB
・乾燥固定: ギムザ染色を行うために使用 
YM式液状検体固定液による固定:主に尿にパパニコロウ染色標本作製時に使用
 
固定方法に応じて染色方法ならびに見え方が決まってきます。
 
湿固定と乾燥固定の差異を下記の表に記載します

バーキットリンパ腫※Wikipediaより引用

 

パパニコロウ染色(湿固定)

ギムザ染色

(乾燥固定)

長所

・細胞の透明度が高く、細胞が重なっていても観察可能

・剥離細胞が少ない

・簡便で迅速に行える

・細胞質内の微細顆粒の染色性に優れる

・メタクロマジー

短所             

・細胞の剥離

・重積が著明な場合は、詳細な観察が出来ない



また検体に応じて様々な組み合わせがありますし、推定疾患や施設によって標本作製枚数は変わってきます
 
1)95%アルコール固定のみ実例:婦人科スメア、喀痰、気管支擦過、乳腺・甲状腺・耳下腺・リンパ節のFNAB
 
2)95%アルコール固定+乾燥固定の実例:呼吸器:肺胞洗浄液、気管支洗浄法準備(*Pap2枚,ギムザ1枚)、 体腔液:(洗浄)胸水、(洗浄)腹水、心嚢液、陰嚢水                

標本の見方の基本

スクリーニングをする際は対物10倍のレンズで鏡検し流していき、怪しい細胞や病原体を見つけた場合に対物レンズを切り替え拡大し判断します
細胞診標本の観察方法は下記の6店に着目する必要があります
・検体や臨床情報
・標本の背景
・細胞集団の所見
・チェックすべき細胞集団の所見
・個々の細胞所見

チェックすべき臨床情報

細胞診検査依頼書に性別年齢などの患者情報が記載されています
・性別、年齢
・臓器・検体、検体採取法
・女性の場合は  性周期、結婚、妊娠、分娩、ホルモン剤使用の有無
・臨床症状・検査データ
・臨床診断
・病変の大きさ・性状
・治療の有無(特に放射線療法)
先入観をもって見てしまう方は、性別年齢、検体種別だけみてから見終わった後にその他の所見をチェックするのも一つの方法です。 

細胞診標本の背景とは

細胞診標本の背景とは病変の主体をなす細胞以外は背景として一括されます
1)背景がきれいか、汚いか、粘液か?
2)壊死細胞の有無
3)出血の有無
4)炎症細胞:好中球、リンパ球、組織球など 
5)細菌、真菌など
を確認することが、背景観察のポイントです

細胞診標本を見るうえでチェックすべき細胞集塊の出現形式


標本を見ていきますが、異常細胞の集団がないか?集団の中に異常細胞が紛れ込んでいないか?確認する必要があります。
チェックすべき出現形式として
1)大型充実集塊:SCC、髄様癌(乳腺)
2)腺管構造:腺管状:腺癌
3)篩状構造:腺癌(特に乳癌)
4)偽篩状構造:腺様嚢胞癌
5)ロゼット様構造:カルチノイド
6)乳頭状構造:腺癌(甲状腺、乳腺、肺、子宮、卵巣…)
7)索状配列、インディアンファイル配列:腺癌(甲状腺、膵、胃、前立腺)、肺小細胞癌、肝細胞癌、カルチノイド
8)二相性パターン:セミノーマ、胸腺腫、癌肉腫、滑膜肉腫…
9)孤立散在性:悪性リンパ腫、白血病、多発性骨髄腫、低分化腺癌
 
これら細胞集団(集塊)の有無を確認し、疑わしい細胞の核や細胞質所見を詳細に観察していきます

細胞診標本を見るうえで着目すべき細胞の核所見

1)核:大型核(好中球の2倍以上、20μ以上)、核の大小不同、不整形切れ込み像、クロマチン顆粒の大小不同クロマチンの凝集、核縁の不均等肥厚核内細胞質、封入体
2)核小体:大型核小体、大小不同
3)細胞質:大型細胞、不整形、大小不同、異常染色性、異常物質、細胞質内への好中球侵入、細胞質小腺腔
4)核と細胞質:N/C比の増大、核の極端な偏在、細胞質の核の圧排像、核と細胞質の分化の乖離

細胞質所見の鑑別


※千葉県臨床検査技師会HPより引用
1)淡明細胞:肺癌、卵巣明細胞癌、唾液腺 腺房細胞癌…
2)顆粒状細胞質:腺房細胞癌、ワルチン腫瘍、甲状腺好酸性細胞腫
3)細胞質内小腺腔:乳癌(小葉癌、硬癌)
4)色素:悪性黒色腫、パジェット病、

細胞診標本を見るうえで鏡検のポイント

(1)非定型的な分化を示す細胞に注目

※病理学会HPより引用
(2)扁平上皮系細胞では、同心円状の層状配列、正常とは異なる染色性を示す細胞をチェックする
3)腺系細胞では、空胞、細胞質内小腺腔、硝子滴、顆粒状細胞質、色素顆粒、封入体などをチェックする
これ重要ですし、病原体も見落とさないよう注意してください

細胞診標本の判定と報告の考え方

悪性細胞、悪性細胞を疑う細胞、良性腫瘍が疑われる細胞、原体等をスクリーニング時に認めた場合は、 細胞診専門医の    判断を仰ぎ報告書の作成と結果報告を行います。
陰性症例を細胞検査士のサインのみで報告していますが、陰性例の10%は細胞診専門医のサインを貰うのが望ましいです。

細胞診標本の報告様式

細胞診の検査領域に応じて報告様式が異なります、(-)(±)(+)の三段階、クラス15のクラス分類、ベセスダ分類や、唾液腺のミラノシステム等領域や施設により報告様式は異なります。
・陰性〔-〕: 悪性細胞を認めない標本
・疑陽性〔±〕:悪性が疑われるが、悪性と判定(診断)するには十分な細胞所見が得られない標本
・陽性〔+〕: 悪性細胞を認める標本
 
また検体が適正に採取されいるか(検体適正/不適正)を考慮する必要があります

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